最初にお断りします。この記事は法的な助言ではありません。
当サイトが書けるのは、条文と、行政が公表している資料から確認できたことだけです。個別の契約や状況にどう当てはまるかは、当サイトには判断できません。 契約書の特約によっても変わります。争いになりそうな場合は、自治体の消費生活センターや弁護士にご相談ください。
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確認日:2026年9月10日
確認できたこと
- 民法606条は、修繕義務を賃貸人(大家)に置いています。ただし賃借人の責めに帰すべき事由による場合は除かれます
- 2020年4月1日施行の改正で、賃借人が自分で修繕できる場合が明文化されました(607条の2)
- 同じ改正で、賃料は請求しなくても当然に減額されるルールになりました(611条)
- 原状回復義務に、通常損耗と経年変化は含まれません(621条)
- 自治体の制度は、賃貸だと使えないことがあります。 当サイトが調べた131自治体にも、所有者や戸建てに限る自治体がありました
- 国の相談事例集に、害獣の事例はほとんどありません。 当サイトが確認した範囲では、蜂の巣が1件だけでした
民法は、修繕義務を大家に置いています
国土交通省の資料に、条文がそのまま載っています。
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
原則として、直すのは大家の側です。
ただし、ただし書きが効きます。 「賃借人の責めに帰すべき事由」による修繕は、この義務から外れます。
そして、屋根裏にハクビシンが入ったことが誰の責めなのかは、条文からは決まりません。 建物の隙間が原因なのか、住んでいる側の管理が原因なのか。当サイトはその線引きを示せません。
言えるのは、出発点が「大家の義務」に置かれている、ということまでです。
直してくれないとき(2020年に明文化されました)
ここが2020年4月1日の改正で変わったところです。
法務省のパンフレットに、改正前の状況が書かれています。
改正前の民法には,どのような場合に賃借人が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。
改正で、次の場合が明文化されました。
①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか,又は賃貸人がその旨を知ったのに,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき又は②急迫の事情があるとき
この①を読んでください。起点は「通知」です。
つまり、実務上いちばん大事なのは、大家か管理会社に伝えて、その記録を残すことです。
- いつ、誰に、何を伝えたか
- メールやメッセージなど、あとから見せられる形で
- 屋根裏の音、糞、被害の写真(当サイトは屋根裏の音の記事で、行政も写真で判断していると書きました)
先に自分で業者を呼んでしまうと、この①の順序から外れます。 費用を請求できるかどうかが不確かになります。急いでいるときほど、まず連絡してください。
賃料は「当然に」減額されます
ここも2020年の改正点です。
国土交通省の資料に、条文が載っています。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
文末が「減額される」です。
同じ資料に、改正前との違いも書かれています。改正前は賃借人が請求して減額される仕組みでしたが、改正後は当然に減額される扱いになりました。
ただし、当サイトはここから先を書けません。
「屋根裏に害獣が入った状態」が、この条文の言う「一部が使用及び収益をすることができなくなった」にあたるのか。 あたるとして、減額の割合はいくらか。 どちらも、当サイトには判断できません。
国の資料にも、答えがありませんでした。 次の節に書きます。
国の事例集に、害獣の例はほとんどありません
国土交通省が「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集 〜賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について〜」(平成30年3月)を公表しています。賃料の減額をめぐる相談と判例を集めた資料です。
当サイトが確認したところ、扱われていたのは次のような事案でした。
- 雨漏り
- 漏水・カビ
- 排水管の閉塞
- 騒音
- 設備の故障
- 窓の破損
害獣の事例はありませんでした。 参考資料のアンケートに蜂の巣が1件あっただけです。
つまり、「屋根裏にハクビシンが入ったら賃料はいくら減額されるのか」という問いに、国の資料は答えを持っていません。
当サイトも答えを持っていません。 ここは正直に書きます。推測で数字を書くことはしません。
退去するときの話(621条)
国土交通省の資料に、条文が載っています。
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
通常損耗と経年変化は、原状回復義務の対象外だと括弧書きで明記されています。これも2020年の改正で明文化されました。
では、害獣が空けた穴や、糞尿による天井のシミはどちらなのか。 通常損耗なのか、賃借人が直すべき損傷なのか。当サイトには判断できません。
言えるのは、「入居時の状態を記録しておく価値がある」ということまでです。 国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も公表しています。
そして、自治体の制度からは外れやすいです
ここが、当サイトが独自に確認できたところです。
当サイトは131自治体の制度を調べました。そのなかに、賃貸に住んでいる人が使いにくい条件がいくつもありました。
| 自治体 | 条件 |
|---|---|
| 越谷市 | アパート・事業所は対象外 |
| 八王子市 | 所有し居住する一戸建てが対象(集合住宅は除く) |
| 中野区 | 戸建て住宅のみ(管理会社がある場合・空き家は除く) |
| 杉並区 | 被害場所の所有者等からの依頼 |
| 江戸川区 | 所有者からの依頼 |
| 足立区 | 区内建物の所有者・管理者が対象 |
| 神戸市 | 自分が所有・管理する敷地内に限る |
| 熊谷市 | 市内在住者か空き家所有者 |
表は横にスクロールできます。
「所有者からの依頼」という条件が、いちばん多い形です。
賃貸に住んでいる人が自分で申し込めない、という意味ではありません。 大家や管理会社の同意があれば進む自治体もあります。ただ、自分ひとりで完結しないことは多い、というのが確認できた範囲での実際です。
蜂でも同じでした。当サイトが蜂の記事で調べた静岡市の補助金は、賃貸住宅も対象外と明記されていました。
つまり順序はこうなります。
- 大家か管理会社に連絡する(記録を残す)
- 自治体の制度が使えるかを、その人と一緒に確認する
- 業者を呼ぶのは、そのあと
この順序が、民法607条の2の「通知」とも、補助金の申請順序とも一致します。
相手が鳥のときは、法律が先に来ます
賃貸で困るのは獣だけではありません。 ベランダのハト、軒下のツバメ、屋根のムクドリ。当サイトはここまで害獣の話をしてきましたが、鳥は扱いが違います。
民法606条の修繕義務は、相手が獣でも鳥でも変わりません。 賃貸人(大家)にあります。
ただし、鳥には鳥獣保護管理法が先に来ます。 長岡京市のページに、こう書かれています。
府や市町村の許可なく卵やヒナがいる野鳥の巣を撤去することは、鳥獣保護管理法により禁止されています。
罰則まで書かれています。
違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金いずれかの刑罰が課される可能性があります。
つまり「大家さん、ハトの巣を取ってください」と頼んでも、卵やヒナがいる時期は大家も取れません。 修繕義務があっても、法律が先に立ちます。
分かれ目は「卵やヒナがいるか」です
武蔵野市が、状況で分けて書いています。
巣はできたが、卵も雛もまだない状態のとき。
ご自身で巣を撤去してしまって差し支えありません。
卵または雛がある状態のとき。
鳥の種類によりますが、おおよそ、卵を温めている期間が12日程度、雛が生まれて巣立つまで14日程度かかります。
そして、市が動ける鳥は限られています。
巣立つまで我慢できない場合、鳥の種類がドバトとカラスの場合のみ、市が捕獲許可を得たうえで卵や雛を駆除することができます(巣材の処分や清掃はご自身で行ってください)。それ以外の鳥の種類の場合は、市も駆除することができませんので、巣立つまでそっとしておいてあげてください。
ドバトとカラス以外は、市も駆除できません。 ツバメもムクドリも、巣立つまで待つことになります。
長岡京市も、巣が空になってからなら問題ないと書いています。
巣については、鳥が巣立った後であれば撤去しても問題ありませんが、中に卵やヒナが残っていないか必ず確認してください。
だから賃貸で鳥の巣に困ったときの順序は、こうなります。
- 卵やヒナがいるかを確認する。 いれば、大家も業者も勝手には取れません
- いなければ、撤去できます。 修繕義務は大家にありますが、巣材の処分と清掃は自治体がやってくれません
- どうしても待てない場合、ドバトとカラスなら市に相談する余地があります(自治体によります)
鳩については、43自治体で個別に調べました。 → 鳩の駆除を市役所に頼めるのか
卵やヒナがいる場合に何日待つのかは、自治体で書き方が割れています。 → 鳩の巣に卵がある。いつまで待てばいいのか
ここは害獣より制度が薄いところです。 自治体の害獣制度データベースで調べた131自治体も、対象はほとんどが哺乳類でした。
罰則の書き方が変わっています
気づいたことを1つ書いておきます。同じ鳥獣保護管理法の罰則を、自治体によって違う言葉で書いています。
- 長岡京市(2025年7月25日):1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 朝倉市(2022年3月4日・当サイトのコウモリの記事で引用):1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
「懲役」と「拘禁刑」で割れています。
追記(2026年9月25日):法令で確認しました。現行の条文は「拘禁刑」です。
e-Gov法令検索で鳥獣保護管理法の第八十三条第一項を直接読みました。
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
当サイトは当初、この節に「どちらが現在の正しい表記かを法令で確認していません」と書いていました。 確認せずに並べただけで終わらせていたので、確認して書き直しました。現行条文は拘禁刑です。 朝倉市のような「懲役」の表記は、改正前のまま残っているものと考えられます。
禁止されている行為の中身は、どちらの表記でも変わりません。 許可なく卵やヒナに手を出せない、という点は同じです。
なお、当サイトが鳩の記事で43自治体を調べたところ、罰則の刑名を書いている自治体は3件だけで、そのすべてが「懲役」のままでした。うち練馬区のページは2026年8月19日更新です。自治体ページの法律の記述は、法令そのもので確かめてください。
この記事が書けなかったこと
- 害獣の侵入が「賃借人の責めに帰すべき事由」にあたるかどうか。 条文からは決まりません
- 賃料の減額割合。 国の事例集にも害獣の事例がありませんでした
- 害獣被害についての判例。 当サイトは確認できていません
- 契約書の特約がある場合の扱い。 個別の契約は当サイトには読めません
- 火災保険が使えるかどうか。 約款を確認できていないので書きません
